私は鉄道に関するプロでもありませんし、マニア的に技術を問われたとてお答えできないことも数多あることでしょう。しかし長年、店舗運営などを見てきて、トラフィックの重要性はこれまで嫌というほど痛感してきました。その意味で人流をどう変えていくのか、そういう観点から、リニア中央新幹線を論じます。

品川駅高輪口に掲げられているJR東海によるPR。

リニアの始発駅として再開発が進んでいる。

(出典:中日新聞東京本社)


JR東海はリニア中央新幹線の品川-名古屋間の開業時期として示していた令和9年(2027年)からずれ込むと正式に発表されました。先日辞意を表明した静岡県知事による建設許可が下りないことや、品川・名古屋両駅の地下工事の難航などいくつか要因があるとされます。同社によると、新たな開業時期は「見通せる状況にない」とのことで、依然として開業時期が不透明な状況にあるといえます。

リニア開業の「意義」とは。

リニア中央新幹線開業の意義について、ふたつの大きなキーが存在します。
まずひとつめはわが国固有の技術である超伝導リニア(SCMaglev)の実用化であるということ。JR東海はこの技術を海外、とりわけ米国に売り出すとしていて、実現すれば経済的な効果のみならず、わが国が誇る新産業として世界に訴求できるのではないかと考えられています。
ふたつめは東海道メガロポリスと言われる東京圏-名古屋圏-大阪圏の移動時間短縮による大都市圏相互の関係性強化であります。現在の東海道新幹線で品川-名古屋間は1時間30分かかるところがリニア開業後は40分、名古屋開業後に工事に着手する予定という新大阪まで「全通」したと仮定すると、品川-新大阪はなんと67分で結ばれるという構想です。東海道メガロポリスが陸路で1時間圏内で行き来できることで日本経済のさらなる活性化が期せる、というのがリニア中央新幹線推進派の考えのようですが、これは私の考察ではありませんので、先にお断りしておくことにいたします。

まず名古屋まで、その後に大阪開業へ。

(出典:毎日新聞)


東京都から名古屋市を経て大阪市に至るリニア中央新幹線構想は東京-大阪間の輸送を使命と考えるJR東海の単独プロジェクト。国や地方自治体も出資する整備新幹線事業とは一線を画し、全線をJR東海の自己資金のみで建設することとしています。そのため、東京都から大阪市までの全線を一気に開通させるには費用負担が重すぎるとのことで、先ずは東京都内におけるターミナル駅である品川駅から名古屋駅までを建設、その後、経営体力の回復を待って新大阪駅までの工事に着手するという2段階開業のスケジュールで推進されています。

品川-名古屋間で当初計画をおよそ2兆円上回る、7兆円超にのぼる工費負担を強いられる同社は名古屋から先、新大阪までの工費の自社調達を諦め、財政投融資(財投)を用いた低利かつ固定金利で3兆円を調達済みとしていて、同社の財務基盤の強化に繋げています。この財投による国の関与は、おおさか維新の会(当時)の知事・市長がロビー活動を展開、当時の安倍晋三内閣が動いて実現したものです。きょうの本題はここ、名古屋駅から先の新大阪駅への開業についての是非と、大阪発展のための施策についてであります。

「東京-大阪1時間」は目新しくない?

「東京」から名古屋駅まで40分と聞くと驚きはあるが、東京-大阪が1時間ちょっとだよ、と言われたとて、あまり人の心には響かない。なぜならば陸路としては画期的でも、空路では羽田-伊丹70分と既に実現しているからです。ましてや羽田、伊丹ともに各々の都市部に近接した利便性の高い空港です。東京上空の米軍による横田空域、伊丹空港からの鉄道アクセスの脆弱性という問題が横たわってはいますが、将来に亘って解決不可能な課題とは思えず、また、永続的に放置しておくべきものでは決してありません。


羽田空港までは品川から京急で最速14分。

伊丹空港も大阪市中心部に近く利便性が高い。


「新大阪駅」の不可解。

他方、リニア中央新幹線において大阪サイドのターミナル駅がつくられる予定の新大阪駅建設の歴史を見ていきましょう。
実は旧国鉄の構想として、もともと大阪駅に隣接して新幹線駅をつくる計画でありましたが、市街地の交通渋滞が頭痛の種であった大阪市がこれを拒否、また市街地を北に延伸する意味もあり、国鉄の宮原操車場の敷地の一部を転用するかたちで新大阪駅が誕生したという経緯が文書に残っています。また、以下は公式文書には一切残されていませんが、大阪市の市政のうえで大きな問題となっていた事案のひとつが新大阪の位置する場所にあって、どうしても公共事業として当地の開発に着手したかった思惑も透けて見えます。これは大阪市に限らず、どこの自治体においてもあえて公にしない課題としてあって、実際に大規模な再開発を実施する際の本来の理由となっています。ことばをぼかして恐縮ですが、それ以上はあえて記しません。

大阪・梅田の御堂筋の交通渋滞のようす。

写真上部が阪急百貨店、左には新阪急ビルが見える。

(出典:毎日新聞社)


航空機がほとんど競争力を持たない東京-名古屋は実質的な時短効果がありますし、京都市が目指しているように京都駅に繋げた場合も、京都に一番近い伊丹空港から阪急の空港リムジンバス利用で最速50分かかるため、リニアによる効用は大きい。されども東京-大阪では既に羽田-伊丹のフライト時間が余裕時分を含めて70分ですから、よほど飛行機が苦手で乗らない方以外にとって、どれほどのインパクトに繋がるものなのか。

加えて先に掲げたような理由でつくられたため、いかんせん新大阪駅は鉄道網、道路網双方で拠点性が低い一方、JR西日本最大のターミナルは新大阪駅から南方4km、一級河川・淀川を隔てた地にある大阪駅です。ここには阪急と阪神の大手私鉄2社のターミナル・大阪梅田駅が立地し、地下鉄3路線の駅が設けられていて、国内3位の大ターミナルを構成しています。

リニアよりも新幹線の「大阪駅」を!


名古屋駅前で進むリニア名古屋駅建設工事の様子。

リニアは品川-名古屋間で着実に進めてほしい。


リニアの品川-名古屋間開業については現在工事が進捗していること、また先に申し述べた日本の技術の実用化の観点から大都市間で開業させることが望ましく、ここは国全体が運営主体であるJR東海を支援しつつ、きちんと進めていくべきであると考えます。

一方で環境アセスすら未済で正式にルートすら決まっていない名古屋-新大阪間については凍結、中止で良いのではないでしょうか。財投という手段で実質的に国による融資を受けているJR東海としては、「3兆円」の使途までは限定されてはおらず、あくまでリニア中央新幹線建設における同社の財務基盤強化が目的とされているとはいえ、名古屋以西の早期着工のための国による実質上の拠出とみられていることから、まさか同社の立場から「名古屋以西の計画を凍結します!」などとは言えないでしょうが、大阪サイドから見れば、政財界や土木業界、一部の都市開発推進論者などは横に置くと、リニアは実はどうでも良くて、名古屋から新大阪まで約140kmの路線を建設するよりも、東海道新幹線の新大阪駅から大阪駅までたったの4kmを延伸することの方が、大きな交通利便性の向上に繋がることは必定であります。

西日本一の大ターミナル・大阪駅。

JR・阪急・阪神・地下鉄3路線が集結する交通の要。


東海道新幹線の「大阪駅」実現について考えられる方法論としては、東海道新幹線を新大阪駅の手前から分岐させて淀川を渡り頭端式の「大阪駅」に至らしめる。地上に建物が多いことからおそらく地下の利活用が想定されます。東海道新幹線のうち、新大阪始発の列車を「大阪駅」発着として、山陽新幹線直通列車についてはこれまで通り新大阪駅発着とすれば、新大阪駅周辺のポテンシャルも維持できるでしょう。
名古屋・首都圏への広域トラフィックを手にした大阪駅周辺はより一層オフィスの引き合いが増えるうえ、百貨店・SCなどの商業シーンにおいても現在より増して旅関連の需要の高まりが想定され、MDのさらなる厚みが期待できます。中之島など近隣における新産業の集積も進む可能性を秘めます。以前も記しましたが、インフラ整備は長期スパンなので何十年も前に立案された計画に振り回されがちですが、工事前(環境影響評価前ならばなおさら)であればいくらでも計画変更は可能でありますから、今、わが国にとって、また各地域にとって、また大阪にとってベストなかたちを議論し、良いトラフィックを創出してほしいと願うばかりです。

※次回の記事は4/8(月)に公開します。


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